贅沢をするとバチが当たる
大間のマグロを食べに行く(学生の分際で)
普段は貧乏学生らしく半額のカツオなどを食べているが、やはりマグロが食べたい。魚といえばマグロ、マグロといえば大間。学生の分際で大間のマグロを食べに行った。
札幌から夜行バスに乗り、朝5時半の函館に投げ出される*1。この時点で身体はボロボロだ。
とりあえずハセガワストアでやきとり弁当を買って食べた。
早朝の住宅地に響き渡る「イガ~~!イガイガ!」の声の主を追いかけたが、ついに見つけられないまま遠くに行ってしまった。今調べてみたらイカの移動販売は1kg単位での販売らしい。軽い気持ちで買わなくてよかった。
始発の路面電車で谷地頭温泉に行ったりして、なんとか4時間の暇を潰した。
ようやくフェリーに乗ると2時間半で大間に着いた。意外と近い。この日は8月31日で、ほとんどの乗客は北海道旅行を楽しんだ帰り道のようだった。一方この貧乏学生は今から旅を始めようとしている。
港から40分ほど歩いてまずは大間崎に向かったが、到着する直前で急に大粒の雨に降られてしまい、そのまま沿道のマグロ屋に駆け込んだ。この旅の目的はかくもあっさりと果たされた。
上の写真でわかる通り、ウニも乗っているやつにしてしまった。学生の分際で。
気持ちの準備ができる前に店に入ったので、ついうっかり「生のマグロですか?」と訊いてしまい、「当たり前じゃない!」と軽く怒られた。そりゃそうだ。
マグロ(とウニ)の味は言うまでもなく、大間まではるばる食べに来たというので更に美味しくなっていた。人間の味覚なんてそんなもんだ。
雨が止んで店を後にし、人並みに本州最北の地を観光したあと、例によって時間が余ったのでスーパーを探索した。大間の人は大間のマグロを食べないらしい。すぐそこの海で穫れるクロマグロではなく、遠くインド洋から来たミナミマグロが並んでいた。
料理が美味しい宿に泊まる(学生の分際で)
さて、函館から来た旅行者が大間からコマを進めるとなると、選択肢は2つある。むつ行きのバスに乗れば、途中で温泉に入ったりしつつ下北半島最大の町に行ける。いっぽう佐井行きに乗ると、交通困難なよくわからない村に連れていかれる。選ぶべき道は明らかだ。
バスに乗って30分、私はこの交通困難なよくわからない村に降り立った。
15時をまわった頃だったが郷土資料館は既に閉まっていて、私はまたもや大いなる暇に直面した。
村一番の集落は、ほんの小一時間歩くだけで隅々まで知ることができた。道ですれ違う人々は老若男女問わずみな私に挨拶をした。これが歓迎を示すものなのか、それとも見慣れぬ人間の正体を推し量るための行動なのかは分からない。少なくとも、私の存在は彼らにとって日常ではなかったようだ。
そろそろ私の存在が村じゅうの話題になったのではないかと思われるぐらい散歩をして、予約してあった民宿に辿り着いた。
ここは本当に良い宿だった。海の音が聞こえる畳の部屋で昼寝をして、ヒバの良い香りのする大きなお風呂に浸かって、海の幸や山菜をたらふく食べ、君も常連になれと言われながら常連さんに日本酒をいただいた。
もちろん、翌日の朝ご飯もたらふく食べた。
ちなみに1泊2食で6500円。安い。
学生の分際で贅沢をしたバチが当たる
佐井村は前述の通り交通困難な地だ。県庁所在地の青森市まで車で行くと陸奥湾をぐるっと回るので数時間かかり、また冬にはいくつかの道が通行止めになって行き止まりの村になってしまう。そこで、陸奥湾を横断する船が運航されていて、これだと青森まで2時間半で行くことができる。この航路は法律で離島航路に指定されていて、陸続きの場所を結んでいる離島航路はたぶんここと高知県の須崎市営巡航船だけだ。
翌朝、この船に乗って脇野沢(まさかりの左下にある港)まで行き、そこからまたバスと列車を乗り継ぐことにした。
女将さんは「今日は風が強いから欠航かもしれないよ」と言い、港まで送ってくれた方*2は「動いてもかなり揺れるぞ」と言った。私は朝食のご飯を2回もおかわりしたのを後悔した。
結局、船は動いた。風速10m/s以上で欠航のところ9m/sだったらしい。港の窓口には酔い止めの薬がご自由にどうぞと置いてあった。乗組員に「初めてかい?今日は本当に揺れるから後ろに座りな」と言われ、誰もいない客室の一番後ろの席に座って覚悟を決めた。
今まで乗った乗り物のなかで一番揺れてる pic.twitter.com/d7MMOXLIhk
— ひたさす (@hita_sas) 2019年8月31日
なんなら停泊中にも揺れていた。港外に出ると上の動画のありさまで、船体が波にぶつかる度に重低音が響き、窓からは空と海が交互に見えた。
本来なら佐井を出ると村内のいくつかの港に寄っていくのだが、乗客がいなかったからなのか波が高くて接岸できないからなのか、脇野沢まで1時間半ノンストップだった。
8時30分に脇野沢に着いて、ここまで唯一の乗客だった私は数人の乗客と入れ替えに船を降りた。しばらく集落を散策し、9時03分のバスに乗るため港に戻った。しかし待てど暮らせどバスは来なかった。
この日は日曜日だ。そして私は旅程を立てる時に平日ダイヤを見ていた。あほみたいな間違いだ。つまり次のバスが来るのは10時33分で、あと1時間半ある。
かなりショックだった。理由はふたつある。ひとつは、今までそれなりに旅行してきた自分がまさかこんなしょうもないミスをするとは思っていなかったから。そしてもうひとつは、船を降りて30分ほど歩き回った結果、ここに1時間半を潰せるような所は何も無さそうだとわかっていたからだ。そもそも住民の姿を全く見かけなかった。
- 朝から開いているカフェや食堂は無い
- 道の駅と野猿公苑までは徒歩50分
- バスが通る隣の集落までは徒歩90分
逃げ道はなかった。
まず始めに、地元の神社の軒下にいつも浮浪者がいたのを思い出し、私も1時間だけそうなろうとした。しかし、横になった途端アリの群れに四肢を噛まれたので退散した。
地図にない遊歩道を見つけたが、土砂崩れで立入禁止になっていた。
海釣り公園と海水浴場は休業中だった。
自販機でジュースを買おうとしたら500円玉を雑草の中に落とし、かなり探したが見つからなかった。
これはバチが当たったなと直感した。この小さな不幸の連続は間違いなくバチだ。何のバチかはわからないが、とりあえず、曜日を間違えた自分のせいにはしたくなかった。そして、さっきの神社に戻って失礼を謝った。
残りの1時間は大人しく海を眺めて過ごした。
これからの数日間は本当に慎ましく旅をした。贅沢をしたせいでお金がなくなったからというのもある。