旅の恥を書き捨て

関西人なので話盛ります

散居村を見に行く

”教科書のやつ”を見に行く

「これ、教科書で見たやつや!」という楽しみがある。

特に日本史とか地学とか、教科書に挿絵がたっぷり載っている科目がいい。例えば、なんとなく入った福岡市博物館で「漢委奴国王」の金印を見たり、そのへんの崖とかで断層がはっきり表れていたりするのを見る。そうすると、授業中に資料集をパラパラめくって暇を潰していた10年ほど前の薄い記憶が呼び覚まされ、「これ、教科書で見たやつや!」と軽い興奮を覚える。ギリギリ覚えているぐらいのものだと、楽しみもひとしおだ。

散居村は、そういう意味でちょうどよかった。散村とも呼ばれる、農地の中に農家が散らばっている集落形態のことだ。地理の資料集はたいてい「都市と村落」の章があって、塊村や路村の航空写真と一緒に、斜め上から見た散居村の写真が載っていた。

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教科書で見たやつや!

これ、航空写真じゃないらしい。

国内最大の散居村がある砺波平野(教科書で見た名前や!)には、散居村を眺めるための展望台があって、まさに教科書と同じ風景が拝めるらしい。見に行かねば。

自分でもなぜこんなに興奮しているのかは分からないが、すぐに夜行バスのチケットを取った。

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連休最終日の夜行バス乗り場の熱気

 

理想の学習

大阪から夜行バスで金沢へ、そこから色々やって、昼過ぎに福光駅前から井波行きのバスに乗った。

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散居村らしさ、ゼロ

当たり前かもしれないが、車窓からは散居村らしさが感じられなかった。龍安寺の石庭を真横から見ても何もわからない、みたいなことなんだろう。

「幕府の巡見使に石高を少なく見積もらせるため、農家を点在させて広大な農地を隠した」という言い伝えがあるのも頷ける。

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瑞泉寺門前、八日町通り

井波は富山県の南西側、南砺市にある瑞泉寺門前町だ。井波彫刻という木彫りの工芸品が有名で、これは瑞泉寺で何度も火事が起き、その度に井波の職人によって再建されてきたので技術が磨かれたというものらしい。彫刻より防火の技術を磨いたほうがよかったんじゃないか。

目的地の展望台はこの瑞泉寺の後ろの山にある。観光案内所で電動自転車を借りて、壁のようにも見える山を登る。

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電動自転車でもしんどい

「これは川ではない、滝である」の常願寺川があるのも富山だったなとか考えながら、休まるところのない急坂を20分ほど登り続けると、目的の展望台に着いた。平日の昼間なのに意外と人がいる。みんなそんなに散居村が好きなのか。

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これ、教科書で見たやつや!

教科書で見たやつが眼下にあった。「広大な農地の中に民家が点在し、風上側に屋敷森がある」という教科書の説明どおりの景色だ。はるか昔にこの砺波平野を作り出し、今も田畑に水をもたらしている庄川の流れが見える。教科書と同じ風景が、教科書よりもずっと分かりやすくこの地の仕組みを解説してくれている。完全に理解した。たぶんこれが理想の学習だ。

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瑞泉寺も良かった(日本建築史圖集で見たやつや!)

おまけ

こうしてこの旅最大の目的は達成されたが、ついでに見てきた福光の町も良かった。

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福光の目抜き通り なんと愛らしい坂道(南砺だけに)

福光は麻布と生糸の商売で栄え、山の向こうの金沢から富と文化を享受してきたらしい。

福光の街なかはほとんどの道がクネクネしているのが良かった。碁盤の目の平坦な町で暮らしていると徐々にクネクネが欠乏してきて、こういう町が琴線に触れるようになる。道の真ん中のスプリンクラーから錆が流れ出て茶色くなっているのも、北陸らしくて良い。

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味噌屋町の街並み

目抜き通りから一本入ると、道はクネクネを越えてグネグネになる。こんな通りが小矢部川沿いに三条ほど並んでいる。

どじょうの蒲焼きが名物らしい。人通りのない目抜き通りに面した蒲焼き屋の店内は薄暗く、隣の旅行代理店と中で繋がっている。どじょうは1本130円、うなぎは700円。色々なことが少しずつ不思議なので、夢でも見ているような気分になってくる。

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ビールに合う

帰りの新幹線で食べたどじょうの蒲焼きは、辛めの味付けで案の定ビールにとてもよく合った。ほんのりと泥臭さがあって、展望台から眺めた水田の広がる景色を思い出した。たぶんこれが理想の復習だ。

 

おまけ2

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謎の牛乳

福光の和菓子屋で知らないビン牛乳を買った。私は大学の牛乳同好会に所属しているので知らない牛乳があれば買うようにしているが、この「水口牛乳」はよくわからない。

まず、公式のHPがない。ネットの牛乳ビン・キャップ収集家さん達(そういう方々がいるのだ)にもあまり言及されていない。何人か買ってらっしゃる方もいるが、どうやら福光の街なかにあるいくつかの個人商店ぐらいでしか売っていないらしい。宅配がメインなのだろうが、置いてある店がかなり少ないため宅配の規模も小さいと思われる。あと、コーヒー牛乳もあるらしい。

さらに、たまたまTwitterで流れてきた画像を見て仰天したのだが、90mlビンの牛乳もあるらしい。普通の牛乳ビンは180mlか200mlで、90mlビンは滅多に見かけない。

https://twitter.com/pio_pio_11/status/1212651546527141888

隣町の城端には「水口乳業」があって紙パックの牛乳を製造しているが、これとは別の会社らしい。こちらもHPがない。

 

色々調べていると知らない乳業メーカーがたくさん出てきて、また富山に行く理由ができてしまった。